正直、この出来事を書くかどうか迷った。
しかし、これは間違いなく旅の一部だったので、書こうと思う。
オリサバからメキシコシティへ向かう途中、カルテルによる高速道路封鎖に遭遇した。
ニュースで見るメキシコの暴力は、その日、初めて自分の足元までやってきた。
オリサバからの移動
この日はメキシコシティへ戻る移動日だった。
相乗りアプリ「BlaBlaCar」を使い、車で向かう。
運転手、助手席の男性、メキシコ妻、そして自分。
特別な一日になるとは思っていなかった。
高速道路に入ってしばらくすると、前方の車が止まり始めた。
最初は事故かと思った。
近くの車の人に状況を聞くと、
「強盗があったらしい」とのことだった。
突如聞こえた銃声
しばらくして、後方から乾いた音が響いた。
パン、パン、パン。
明らかに花火ではない。
マシンガンを持った警察官が走っていくのが見えた。
車内の空気が一変した。
前方は強盗で進めず、後方では銃撃戦。
トラブルに挟まれてしまった。
運転手も助手席の男性も、
「初めての経験だ」と言う。
メキシコ妻も初めてだった。
彼女は命の危険を感じ、静かに涙を流していた。
自分は不安を感じながらも、どこか現実を俯瞰していた。
直接銃撃戦を見たわけではない。
カルテルの姿も見ていない。
その距離感が、恐怖を少し鈍らせていた。

前方と後方両方でトラブルが起きて、立ち往生している様子。
高速道路を逆走
やがて警察の指示が出た。
「前方は通行不能。逆走して戻れ。」
日本ではまずあり得ない光景である。
全車両が一斉にUターンし、高速道路をゆっくりと逆走し始めた。
この頃には後方から何台かパトカーが通ってきていたので、銃撃戦は収まったのだろう。
この瞬間、「これはメキシコらしい経験だ」と思っていた。
無事であることを前提に、出来事をどこか旅の一部として受け取っていた。

帰る途中に撮った写真。メキシコシティ方面へ行きたい人たちはまだ待っていた。
軍の車両とすれ違う
帰路、メキシコ軍の車両と何度もすれ違った。
家に戻る途中ニュースを確認すると、カルテルのリーダーが殺害され、それに伴う暴動と道路封鎖だったとのことだった。
ニュースの中の出来事が、数の自分の体験と重なる。
距離は、確実に近かった。
生を実感した日
オリサバに戻ると、メキシコ妻の母がスープと揚げタコスを用意してくれていた。
湯気の立つスープ。
揚げたてのタコスの匂い。
つい数時間前まで銃声を聞いていたとは思えないほど、家の中は静かで温かい。
「ああ、生きている。」
そう強く思った。

用意してくれたスープ、見た目よりも辛くなく、優しい味が体にしみた。



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